休み時間。また珠子が、窓の外を見ながら呆けている。

 そんな時、外は決まって土砂降りの雨だ。

「最近よく降るね」

 彼女の前の席に座りながら声をかける。んー、という気の無い声が返ってきた。

「・・・なんかあった?」

 努めて軽い声で聞いてみた。

「え?」

 珠子が目をパチクリさせた。

「や、この前から雨ばっかり見てるからさ」

 私がそう言うと、珠子は初めて見せるような優しい笑顔で、

「ありがとう」

 と返してくれた。

 

 一週間程前の事らしい。

 下校時に私と別れ、一人で家路についていた時。後ろからザザザザッとざわめく音がしたそうだ。

 驚いて振り返ると、その音が一気に近づいてくる。遠くの道が霞んで見えたという。

 アスファルトの道路が黒く変色しながら、音と共に物凄いスピードで迫ってくる。

「一瞬で、滝みたいな雨に包まれたの」

 熱のこもった口調で珠子が一気に語り終えると、私はすっかり脱力してしまった。

「あー。通り雨に降られたのはよくわかった」

 思わず頬杖を突いて溜め息を漏らす。

「で、それのどこらへんが気になっているんですかタマさん?」

 問われる事を想定していたのだろう。珠子は淀み無く答えた。

「境界ね。雨と晴れとの境って、もっとあやふやなものだと思ってた。海の波打ち際みたいな曖昧さ。だけど・・・」

「その境界をはっきりした形で見せ付けられた、と」

 にんまりと珠子が笑った。

「さすが翠。話が早いね」

「もうあんたの発想にも慣れてきたのよ」

「ほんと、違う世界が駆け抜けて行った感じだったんだ。あれを翠にも味あわせてやりたくてね」

 そう言って、今度は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 心配して損をした気分が、緩やかに解けていくのがわかった。

「期待してるよ」

 私達は顔を見合わせ、にひひと笑った。

 

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