小学校三年生ぐらいの頃、私と珠子は既に友達になっていて、放課後にはよく二人で遊んでいた。
お気に入りは学校の裏山で、日が沈むまで男子の様に駆け回っていた。
少しずつ山の探索は進み、やがて私達は一つの小さな沼を見つける。そこだけ妙に木々のカーテンが厚いようで、少し薄暗く感じられる場所だった。
私はおっかなびっくり、珠子は興味津々で直径50m程の沼のほとりを歩きだした。土は少しぬかるみ、転がっていた石や岩は全て苔に覆われていた。
あっ、と軽く声を発して、珠子がしゃがみ込んだ。何かと思って私もしゃがみ、彼女の足もとに目をやる。
酷く汚れた運動靴が、つま先を沼に向け、きちんと揃えて置かれていた。
ぞくりとした。思わず珠子の顔を窺うと、彼女の表情も固まっている。
私達はどちらからともなく立ち上がり、靴に触れることもなく、その日は山を後にした。
次の日から手分けして、町内で情報を集めて回った。父母や先生から話を聞き、図書館で過去の新聞や雑誌を読んだ。
結果、あの山が絡んでいそうな事件はまったくの0。行方不明者や自殺者も十数年間おらず、私は胸を撫で下ろしたが、珠子の表情は晴れないままだった。
それから私達は何となく裏山を避けるようになった。
ただ年に一度だけ、必ず二人であの靴を見に行っている。
誘ってくる珠子は、あの靴が無くなっている事が一番怖いと言っていた。それは私も分かる気がするのだ。
それから八年程経った今も、苔に覆われた靴がそこにある。