試合後のお茶会も終わり、私とすずめは夜道を歩いていた。

 くいなの家は自分たちとは反対方向にあるらしく、その場で別れたのだが、その別れ際、私に向かって何やら目配せをしていたのを思い出す。

 あれは多分、私の隣で沈んでいるすずめへのフォローをお願いされたのだろう。

 くいなに諭された事はそれなりに堪えたらしく、この帰り道、すずめは殆ど口を開かなかった。

「ねえ、名取さん」

 私は紛れもなく口下手な方で、その後口走った言葉に自分の顔が熱くなった。

「今日からあなたのこと、名前で呼んでもいい?」

 すずめの足が止まった。私の位置からでは彼女の目は絆創膏に隠されていて、表情は読み取りにくい。私は言葉を続けた。

「少なくとも私はあなたと話せて・・・その、友達になれてよかった。だから、ね」

 すずめがゆっくりとこちらを振り返った。

「いいの・・・かな」

「私がそうしたいの。いや、私も・・・かな?」

 詰まる所、くいなは何も出会った事自体を否定している訳ではないのだ。問題は選手間の距離。それでも──

「ありがとう。つぐみ、さん」

 すずめに笑顔が戻った。自分の胸が一気に高まるのを感じる。

「うん。じゃあ行こっか、すずめさん」

 それでも私は、すずめと近しくなりたかったのだ。

 

 ベッドに倒れ込み、天井を見上げた。

 風景は変わらないが、堂々廻りしていた思考には漸くの変化が訪れた。

 すずめとの試合で感じた違和感。不快感と言ってもいい。その理由。

 それまでは自分に自惚れがあったのではないかと思っていた。いわゆる、実力で劣る格下相手に対する躊躇い。

(でもそれは多分、違ったんだ)

 確信が欲しかった。どんな場所でもいい。近いうちにすずめと拳を交わそうと、そう決めた。

 

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