「トリックオアトリート」
登校時、待ち合わせの場所にやって来た珠子がいきなりそう言った。
「……ハロウィン?」
確認するように聞いた途端、
「トリイトーッ!」
ガバッと制服のスカートを持ち上げられた。
「ギャーッ!!」
私は咄嗟に左手でスカートを押さえると、右手のカバンで珠子の頭を殴りつける。バコンとくぐもった音がした。
「おおおお……」
頭を押さえてうずくまる珠子にもう一発、カバンをくれてやる。
「仮装くらいして来い!」
頭をさすりながら珠子がゆっくり立ち上がった。目にはうっすら涙を浮かべている。
「学校行く前なのに無理言わないでよ…もう」
私はポケットに常備してある飴玉を一つ掴み、恨みがましくこちらを睨む珠子に投げて寄越した。
「ヘヘ、サンキュ」
現金なもので、珠子は笑顔を取り戻すと、早速飴玉の包み紙を解いて口へと投げ入れた。
「しかし祭日になるとテンション上がるよね、タマって。今日なんて休日でもないのにさ」
「そりゃそうよ。お祭りだもん」
「…それは答えになっているのか?」
少し呆れながら、私も飴玉を口に入れてコロコロ転がした。
「ところであんたはお菓子くれないの?」
「へ? 翠、仮想してないじゃん」
私は黙ってサブバッグから白タオルを取り出し、手早く三角に折って頭に縛った。
「うらめしや」
「ちょ、タオルで天冠(※1)って反そ…」
珠子が言い終わらぬうちに彼女のスカートを掴み、
「トリーック!」
盛大に捲ってやった。
「ギャーッ!!」
直後にカバンで頭を殴られたが、珠子の口から飴玉がこぼれ落ちるのを確認したので、よしとした。
(※1)日本幽霊の頭についている三角形の白い布。