珠子の部屋のカーテンは、白くて薄い、飾り気のないものが一枚だけ下げられている。閉め切っていても部屋の様子が覗かれるかも知れない、そんな薄さだ。

 

 小学三年生の冬の事だった。

 冬休みが明ける直前、珠子に宿題の手伝いを頼まれた。

 私は渋々引き受けたものの、それは彼女の部屋に泊まり込んでの大仕事となった。宿題は半分以上、手付かずで残っていたのだ。

 珠子は書き初めと工作と絵日記、私は算数のドリルと漢字の書き取りをひたすらこなした。

 肩が凝り目が霞み、全てをやり終えた頃には日付が変わっていた。

 お風呂に入る事すら億劫だった。私達はのそのそと布団を並べて敷くと、

「おやすみ・・・」

 珠子の声と同時に電灯が消えた。

 自分のものではない、柔らかな毛布のいつもとは違う匂いに、少し薄めの枕。多少の違和感はあったが、疲れ切った夜の事、すぐに眠りにつける筈だった。

 瞼の裏に光を感じた。電灯よりも少し冷たい光が、瞼の裏を薄く赤く照らし出す。

(灯りは消した筈なのに・・・)

 私は部屋を真っ暗にしないと眠れない質なので、気になって目を開いた。

 暗い部屋の中で、カーテンだけが、白くぼんやりと浮かび上がって見えた。

 街灯か月明かりだろうか。思いの外、眩しい。

「ねえタマ。カーテン厚いの無いの?」

 私の不服に、珠子はイビキで返事を寄越した。あまりの寝つきの早さに呆れ、諦め、私は頭ごと布団に潜り込んだ。

 やはり疲れていたのだろう。その晩は朝まで夢を見ることも無く、グッスリと眠れた。

 

 それから暫く経って、もう一度珠子の部屋に入った時に気づいた事がある。

 窓を開けると、目の前に藪。彼女の家は山裾に建てられているのだ。

 当然街灯も無く、月の光が届くかも怪しい程に、木々は鬱蒼と茂っていた。

 私は今でも、あのときの光は月明かりだったのだろうと思うけれど、もしカーテンを開けて外を眺めていたなら。

 そこには何が見えたのだろうか?

 たまにだが、そう考える。

 

戻る