「で、どうなのよ?」
「はい?」
午前の授業が全て終わり、珠子が弁当の包みを解きながら切り出した。
「明日の話ですよ翠さん。誰か渡す人いないの?」
(分かってて聞いてるでしょこいつ・・・)
軽く苛立ったので敢えて笑みを作り「お父さん」と明るく答えてやった。
「ちっ」
いきなり舌打ちされた。
「この野郎・・・あんたはどうなのよ」
「・・・お父さん」
「ちっ」
前日まで何の準備もしていなかった私達乙女二人は、放課後連れ立ってデパートの特設スペースへと向かった。
「うわあ・・・」
予想以上の人だかりだった。チョコと女性の甘ったるい香りが立ち込め、いきなり帰りたい衝動に襲われる。
「ほら、急がないと安いのも売り切れちゃうよ」
珠子に急かされ、私は気を取り直し店内を物色した。
どうやら本命に渡すような高級チョコは完売しているらしく、義理チョコを選びに来ている客が大半のようだった。
私は何とか500円程度のトリュフセットを確保できた。が、珠子はというと・・・
「たけのこの里・・・ただのおやつじゃん・・・」
箱を持ったまま軽く放心していた。
私が先に清算を済ませてレジの傍で待っていると、
「あの、リボンつけてください」
珠子がむき出しのたけのこの里に装飾を要求したのだ。
居たたまれなくなった私は、逃げるようにその場を離れたのだった。
その後珠子と合流した時、リボン付きのパッケージで彼女に何度も小突かれた。